寄稿

アフィカ・アディラ(Afiqah Adilla):潜在的態度測定手法

 

 

潜在的態度測定手法とマーケティングリサーチにおける応用

1) 潜在的態度測定手法とは

従来のマーケティングリサーチでは、対象者に質問をし、対象者がそれについて考え、意識的に質問に対する態度を答えます。このような手法を顕在的手法といいますが、対象者が望ましくないと思っている回答を控えたり、意識的な部分しか捉えられないといった課題があります。

顕在的手法の対照として潜在的手法があります。潜在的手法は認知心理学における注意プロセスと潜在記憶についての知見から生まれたと言われています。そのなかには、注意プロセスにおける統制的処理や自動的処理の考え方に基づき開発された手法もあれば、過去の経験の記憶が意識的にアクセスできなくても現在の反応に影響を与えるという潜在記憶の考え方に基づく手法もあります。これらの潜在的態度測定手法は、背景にある考え方に違いがあるものの、対象者が戦略的に反応を制御することを制限し、対象者の自己観察に頼らないことで潜在的に持っている態度を測定することができるという点で、本質的な特徴は似ています。

 

2) 代表的な手法

潜在的態度測定手法といっても反応時間を用いて態度を測定する手法もあれば、正解率などを用いる手法もあり、先行研究によれば、20種類ほどの手法が開発されてきました。ここでは、20種類の内、潜在的態度測定手法の論文でよく見かける4つの手法を紹介します。

1. Sequential Priming Task (SPT)

対象者にプライム刺激 1 を呈示した後、評価対象を2つのグループに分類するタスクを行っていただきます。対象者がプライム刺激と対象の刺激を関連付けた場合、反応時間が早くなる傾向があります。各条件で少なくとも10回、計100-300回のトライアル数を実施することが推奨されています。この手法で計測した結果の信頼性は低いと言われています。

 

2. Implicit Association Test (IAT; 潜在連合テスト)

IATでは、7つのタスクブロックを用いて、2種類の対立する概念カテゴリーと2種類の属性カテゴリーの組み合わせを各ブロックで提示します。そして、対象者に画面の中央に表示される刺激が、左右のどちらのグループに該当するかを分類させます。対象者が概念カテゴリーと属性カテゴリーのイメージが一致していると認識した場合、反応時間が早くなります。IATはほかの手法よりも信頼性・安定性が高いと言われています。

 

3. Affect Misattribution Procedure (AMP; 感情誤帰属手続き)

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1 プライム刺激は以前の経験によって学習した概念や知識を活性化し、次に表示する対象刺激の評価処理に影響を与える刺激のことを指します。

AMPはSPTのシンプルな設計とIATの優れた心理計測特性の双方を持ち合わせるように設計された手法です。対象者にプライム刺激を表示した後、対象の評価を行っていただきます。ポジティブと捉えるプライム刺激とニュートラルな評価対象を組み合わせた場合、評価対象をよりポジティブに、ネガティブなプライム刺激の場合にはネガティブに評価する傾向にあります(感情誤帰属)。2種類のプライムカテゴリーを使用すると想定した場合、各カテゴリーを少なくとも50回、計100回のトライアル数を実施することが推奨されています。先行研究では、AMPの信頼性はIATに近いと報告されています。

 

4. Approach-Avoidance Task (AAT)

AATでは、画面に表示されている評価対象に対し、レバーを引く(接近)又は押す(回避)動作を組み合わせて、対象者の反応時間を計測します。ポジティブな評価対象は接近動作の反応時間が短くなる傾向があります。AATのタスク設計(画面表示、動作のフィードバック等)にはいくつかのバリエーションがあり、信頼性は使用するタスク設計によって異なります。また、この手法は、IATに比べて、マーケティングリサーチに応用されている事例・研究は多くありません。

 

3) 応用事例

潜在的態度測定は偏見、依存症や精神病などの幅広い分野に使われていますが、ここでは、商品選択やブランド拡張戦略の評価、選挙時の投票行動予測といったマーケティングリサーチに近い応用事例を紹介します。

1. ブランド品とノンブランド品の選択を予測 (Friese, 2006)

・ブランド品とノンブランド品(いずれも食品)に対する態度を顕在的手法とIATを用いて測定した後、謝礼として、対象者に同じ価格のブランド品セットとノンブランド品セットを選んでいただきました。商品選択に時間制限がない場合、顕在的手法の測定結果が商品選択に有効でした。しかし、商品選択に時間制限(5秒以内)を設けた場合、顕在的態度とIATの結果が一致しない対象者は、IATの結果のほうが商品選択に有効でした。

2. ブランド拡張戦略(ライン拡張)の評価 (Nadine, 2013)

・ファストファッションブランドが通常よりも高級製品にブランド拡張した場合、IATの結果では、そのブランドと高級感との結びつきが強まりました。一方、高級ファッションブランドが通常よりも購入しやすい価格帯の製品にブランド拡張した場合、IATの結果では、そのブランドと高級感との結びつきが弱まりました。

3. 観光先選択意思予測 (Yang, 2012)

・中国人観光客に対し、日本と香港について顕在的調査手法とIATを実施したところ、顕在的調査手法ではこの2つの観光スポットに有意な差はみられませんでした。しかし、IATでは、香港に対して日本よりもポジティブな反応がみられました。

4. 潜在的嗜好とアルコール消費 (Payne, et al., 2008)
・顕在的手法に比べてAMPによる潜在的態度測定の方が、ビールの消費行動や自己申告した飲酒傾向を予測することができました。

5. 2008年アメリカ大統領選挙における顕在的・潜在的偏見 (Payne, et.al., 2010)
・顕在的に偏見を持つ人はObamaではなく、McCainに投票する傾向がありました。そしてAMPの結果では、潜在的に偏見を持つ人は選挙を棄権するまたは第3者に投票する傾向がみられました。

 

4) 活用にあたっての留意点

対象者の短時間にわたる反応を測定する潜在的態度測定手法では、上記で紹介した手法を通じてわかるように、数十回から数百回のトライアル数を用いて実施する必要があります。その理由は、対象者の集中力の変化や注意の低下などの影響を吸収し、手法の信頼性を保つためです。時間の制約上、先行研究よりも少ないトライアル数で実施する必要がある場合は、信頼性が保たれるかを確認するステップが重要になってきます。また、プライム刺激や評価対象となる刺激に使用する言葉の長さや複雑さは、認知スピードにも影響する可能性があり、タスクを設計するときに十分に検討する必要があります。さらに、潜在的手法を用いる行動予測の応用において、以下のことが示されています。

(a) 潜在的手法は顕在的手法よりも衝動的行動の予測性能が高いが、計画的行動の予測では逆のパターンがみられます。

(b) 潜在的手法は、商品を買ったり選ぶうえで必要となる時間や認知資源などのリソースに制限がある場合は有効に機能しますが、リソースに制限がない場合、顕在的手法の方が有効です。

(c) ワーキングメモリ 2 の容量が少ない人の行動は潜在的手法、ワーキングメモリ容量が大きい人の行動は顕在的手法の結果が、実際の行動をうまく予測できます。また、論理的な思考を行う人の行動を予測するには顕在的手法を、直感的思考の人は潜在的手法を用いることで、より精度を高めることができます。

 

 

参照文献
Friese, Malte & Wänke, Michaela & Plessner, Henning. (2006). Implicit consumer preferences and their influence on product choice.  Psychology & Marketing. 23. 727 - 740. 10.1002/mar.20126. .

Gawronski, Bertram & De Houwer, Jan & Sherman, Jeffrey. (2020). Twenty-Five Years of Research Using Implicit Measures. Social Cognition.  38. s1-s25. 10.1521/soco.2020.38.supp.s1. .

Gawronski, Bertram & Hahn, Adam. (2019). Implicit measures: Procedures, use, and interpretation. 10.4324/9780429452925-2. .

Greenwald, Anthony & Nosek, Brian & Banaji, Mahzarin. (2003).  Understanding and Using the Implicit Association Test: I. An Improved Scoring Algorithm. Journal of personality and social psychology. 85. 197-216. 10.1037/h0087889. .

Nadine Hennigs Klaus-Peter Wiedmann Stefan Behrens Christiane Klarmann Juliane Carduck,. (2013). Brand extensions . Journal of Fashion Marketing and Management: An International Journal, Vol.17 Iss 4 pp. 390 – 402.

Payne, B. &. (2008). Automatic attitudes and alcohol: Does implicit liking predict drinking?  Cognition & Emotion - COGNITION EMOTION.  22. 238-271. 10.1080/02699930701357394. .

Payne, B. &. (2014). The Affect Misattribution Procedure: Ten Years of Evidence on Reliability, Validity, and Mechanisms. . Social and Personality Psychology Compass. 8. 10.1111/spc3.12148. .

Payne, Brian & Gawronski, Bertram. (2010). A History of Implicit Social Cognition: Where Is It Coming From? Where Is It Now? Where Is It Going?. .

Payne, Brian & Krosnick, Jon & Pasek, Josh & Lelkes, Yphtach & Akhtar, Omair & Tompson, Trevor. (2010). Implicit and Explicit Prejudice in the 2008 American Presidential Election. Journal of Experimental Social Psychology. 46. 367-374. 10.1016/j.jesp.2009.

Wentura, Dirk & Degner, Juliane. (2010). A practical guide to sequential priming and related tasks. Handbook of Implicit Social Cognition: Measurement, Theory, and Applications. 95-116. .

Yang, Jie & He, Jiaxun & Gu, Yingkang. (2012). The implicit measurement of destination image: The application of Implicit Association Tests.  Tourism Management. 33. 50–52. 10.1016/j.tourman.2011.01.022. .

 

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2 ワーキングメモリは作業に必要な情報を短時間に保持・処理する能力を指します。

 

By アフィカ・アディラ(Afiqah Adilla) <(株)インテージ事業開発本部先端技術部>

 

 

 

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